2024年3月10日(日)、日英同時通訳や会議通訳者、研修講師として多方面で活躍されている莉々紀子氏をお迎えし、国際交流リーダー養成セミナーを実施しました。当日は30名の方に参加していただき、講義とグループワークを交え、これからのグローバルコミュニケーションや異文化理解のあり方について学ぶ時間となりました。
講師:莉々 紀子 氏
宮城県仙台市出身。
学歴:宮城県仙台東高等学校英語科、東北学院大学文学部英文学科卒業。社会人学生として東北大学大学院国際文化研究科にて修士取得。専門は応用言語学、通訳理論。
大学卒業後、宮城県公立高等学校の英語教員として6年、黒川高等学校と白石工業高等学校で勤める。現在は日英同時通訳・会議通訳者、早稲田大学非常勤講師、山形大学招聘講師。東北と関東を中心に通訳業務を行うほか、企業向けビジネス英語研修も提供。
通訳専門分野はIT、人工知能、コンピュータサイエンス、ブロックチェーンなどテクノロジー系。その他、法廷通訳を始めとする司法通訳、講演会や要人対応も行う。実績例に、フィギュアスケート金メダリスト、エフゲニー・プルシェンコ選手の記者会見での通訳、元駐日米国大使キャロライン・ケネディ氏による奥山仙台市長への表敬訪問の際の通訳。G7財務大臣・中央銀行総裁会議2016にて衆議院議長大島理森氏付き通訳。岸田文雄(当時政務調査会長)主催「諸外国の新型コロナウイルス対策の知恵を学び合う議員連盟」にて日本・イスラエルのオンライン会議の同時通訳。
Website:https://www.lilystransupport.com/
セミナー内容
〈イントロダクション〉
まず、アイスブレイクとして「噓つき自己紹介」というグループワークが行われました。嘘を1つ織り交ぜた3つの文章で自己紹介を行い、どれが嘘かを当てるというもので、互いを知るだけでなく、嘘を見抜くためにより深いコミュニケーションをするようになることが狙いです。ワークを通じ、表情や視線などの非言語的な要素もコミュニケーションにおいて重要であることや、嘘であることをごまかそうと情報を加えれば加えるほど真実味が欠けていくことなどの気付きがあったという感想がありました。
続いて莉々氏の自己紹介があり、通訳者を目指したきっかけ、通訳者として地位を確立するまでの経緯、これまでの活動について共有していただきました。莉々氏について詳しく知りたいという方は、莉々氏が登壇した『TEDxTohokuUniversity』(Youtube)をぜひご覧ください!
〈本編〉
3つのテーマが設けられ、講義とグループワークを交えながら進められました。
○テーマ1:グローバルコミュニケーション
最初に「コミュニケーション力が高い人はどんな人だろうか」「人とコミュニケーションを取るときにどんなことに気を付けているか」という2点について、グループに分かれて意見を出し合いました。
続く「異文化理解」に関する講義では、月の見え方や太陽の色、虹を構成する色の数や種類などの具体例から、同じものを見ていても国や文化、個人によって見る角度や表現方法は様々であるいうお話がありました。その後、再びグループに分かれて「日本にしかないもの」と「海外で驚いた文化」を出し合いました。国際交流の経験が豊富な参加者からは様々なカルチャーショックの事例が挙がりましたが、一歩踏み込んだ莉々氏の質問で、それがなぜ日本にしかないのか、逆に日本にないのか、カルチャーショックの背景にあるものを考えるきっかけになったように思います。
その後、コミュニケーションにおいては言語情報より非言語情報の方が重要であるという「メラビアンの法則」という説を紹介していただきました。すなわち、言語情報(メッセージ)と非言語情報(声のトーンや表情、姿勢など)を一致させることが重要であり、無意識にしている表情などが、もしかしたら相手に誤解を与えているかもしれないということに気付かされました。
テーマ1最後のプログラムは「ルルンバ文化を探れ!」というワークでした。架空の「ルルンバ人」5名と「専門家」25名に分かれ、ルルンバ人がどんなコミュニケーション文化を持っているのか、様々な質問を投げかけながら探っていくというものです。ネタバレになってしまうためルルンバ文化に関する説明は割愛しますが、専門家となった参加者たちはどんな質問を投げかければ解明できるか、コミュニケーションの根本に立ち返ることができる時間になっていたようです。一方で、ルルンバ人を演じた参加者の感想を聞いた莉々氏から「それこそまさしくマイノリティが抱く感情」というコメントがありました。また、普段会話する中で気に留めないようなことにも着目する機会になった、という感想もありました。異文化コミュニケーションを疑似体験することで、参加者たちはそれぞれにUnconcious Biasを少なからず持っていることに気付かされたようです。
前半の講義やワークを通じ、無意識のうちに先入観を持っていることを自覚したようです。また、多様な価値観があることに気付き、互いの違いを理解し、関係を構築することができる能力(異文化コンピテンシー)を身に付けることが、グローバルコミュニケーションを取る上で必要不可欠であることを学ぶ機会にもなりました。
○テーマ2:ロジカルコミュニケーション
前半で学んだことに加え、異文化理解を促すためには「ロジカルさ」も欠かせない要素です。相手にいかにロジカルに物事を伝えるか、「FAB Talkプロセスモデル」「PREP法」というコツを教えていただきました。また、相手が言ったキーワードを繰り返す「ピック&リピート」もコミュニケーションを円滑に進める上では大切だと言います。繰り返すことで自分の中にも定着されるため、相手への理解を深める助けになるということでした。
続いて、「ハイコンテクスト文化」と「ローコンテクスト文化」についてご教示いただきました。価値観や感覚といったコンテクスト(文脈や背景)に大きく依存する「ハイコンテクスト文化」か、コミュニケーションがほぼ言語を通じ行われ、文法も明快で曖昧さがない「ローコンテクスト文化」か、国や言語によって傾向が分かれるそうです。日本は究極のハイコンテクスト文化であると言われるそうで、ハイコンテクストによって誤解が生じうることを実際に起きた事例を通じて学びました。相手に理解を委ねるのではなく、共通認識がないという前提のもと、ローコンテクストの姿勢を取っていくことが、今後必要になることが分かりました。
○テーマ3:通訳セルフトレーニング
最後に、莉々氏が通訳者として日々どのようなトレーニングを行っているかをご紹介いただきました。通訳者というとアウトプットに着目しがちですが、インプット(聞くこと)と情報処理する能力、そして保持する能力も大切なのだそうです。単に語学を身に付けるだけでなく、集中力や記憶力、瞬発力やメモの取り方など、複合的な技能を鍛えるために、莉々氏が日々どのように研鑽しているのか教えていただき、私たちでもすぐにでも真似できそうな内容ばかりでした。特に、莉々氏はノートテイキングをホワイトボードを使って見せてくださり、参加者たちはそのスキルに目を奪われ、拍手が沸き起こるほどでした。
〇まとめ
最後にグループに分かれて「NASAゲーム」を行いました。グループで話し合いながら全員で一つの結論を導き出すことを目的とした合意形成を行うゲームで、今回のセミナーを通じて学んだコミュニケーションスキルを早速実践する機会になりました。ロジカルに伝える工夫、姿勢や表情、前提条件の共有など、個々人がこの日学んだことを思い返しながら、コミュニケーションをしっかり取ろうとしており、それぞれに合意形成の取れた回答を導き出せていたようです。
参加者の声
- 普段何気なくコミュニケーションをとっていたが、改めて考えることができてよかった。固定観念などもあり、自分にとって新しい発見もあった。
- 頭の中にある先入観がフラットになりました!また告白や面白い話に活用できるfabやprepは今後も使っていきたいたいです。最後に通訳のやり方は、僕も感覚的にやれる素地があるように感じました!!!!!!
- 日本で暮らしていると当たり前になっていることが、他の国々との違いを改めて考えることで、それぞれの文化の違いがあることを前提にコミュニケーションをとることについて、ハッとすることがいくつもあった。
- 自分が正しいと理解していたことがグローバルの視点からは如何に漸弱か再認識できた。
- 仕事で議事録を書くことがあるので、メモの取り方や学習方法など参考になりました!!
- 先生のお話がとてもわかりやすく、楽しく学ぶことができました。ワークでは普段のデスクワークでは使わない思考力等が必要で、パッと思いつかないことも多々ありましたが、人それぞれ色々な考えがあって面白かったです。またメモ取りの実演を初めて見せて頂きその技術にとても驚きました。相当な訓練が必要かと思いますが、普段の生活にも役立てられたらと思いました。
総括
久しぶりに対面での開催が実現した今回の国際交流リーダー養成セミナーは、休憩時間を含むと7時間にも及ぶ長丁場での開催となりました。莉々氏のお人柄もあいまって終始笑いの絶えない中、参加者のみなさんにとってたくさんの収穫がある時間であったようです。ランチ交流会や休憩時間にも参加者のみなさんが莉々氏に積極的に質問したり、初対面にもかかわらず参加者同士で情報交換したりしている姿もとても印象的でした。本セミナーがみなさんにとって有意義なものになっていれば幸いです。
次回の「国際交流リーダー養成セミナー」をどんなテーマで開催するか、これから検討を進めていきます。多くの方のご参加をお待ちしております!
〈主催〉 一般財団法人青少年国際交流推進センター
〈共催〉 株式会社リリーズ・トランサポート
〈協力〉 日本青年国際交流機構(IYEO)