一般財団法人 青少年国際交流推進センターは、「イスラームを知ろう!」の第13回として、2023年9月23日(土)に、イスラームを知ろう!~「日々の暮らしに生きるイスラーム文明」現代社会の礎はイスラーム科学で大きく拓かれた~【オンラインセミナー】を開催しました。
当センターでは、イスラームを楽しく学び正しく理解すること、そして多様性を受け入れお互いを認め尊重しあう心を育むことを目指して、「イスラームを知ろう!」セミナーを2020 年から実施しています。
今回のセミナーでは、ゲストスピーカーに日本UAE文化センター代表のハムダなおこさんをお迎えし、イスラーム文明とは何か、現代科学の発展にどうやって寄与したのかを身近な生活に根付いた視点から分かりやすく面白くお話しいただきました。33名の参加者を迎え、とても有意義な時間となりました。
最初に、私たちの身近な食べ物の中にもアラビア語が語源となった砂糖やゴマ、コーヒーなどがあり、その他にもアルコールや哲学、蒸留器、カメラなどイスラームの地で学問が発展したことを示す名詞が現代まで残されていることを紹介していただきました。
イスラーム文化は十字軍の帰還者や十字軍の奴隷によってヨーロッパに広がっていき、建築やタイル、細密画や病院施設など人生を豊かにするようなものが花開きました。
続いて、イスラームの歴史で欠かせない人物を詳しく説明していただきました。 天文学者、アルバッターニーは電子計算機も望遠鏡もない時代に三角法を用いて1太陽年が365日5時間28分24秒と割り出しました。これは現在の時間と数分しか変わりません。同じく天文学者のアル・ビールーニーは、地球は自転し、太陽の周りを周回すると説き、地球の半径は6339.6キロと観測し、これは現在の観測地と約40キロの差しかないということは驚きです。
なぜ彼らは天体の位置などを正確に知る必要があったのか。それは、イスラームの5行の中に、礼拝(決まった時間にマッカの方角に向かって決まった回数の所作を行わなければならない)とあり、決まった方角を守らないと礼拝したことにならない為、時間や方角を割り出し、地図を作る必要があったのです。
天候が悪い日は目視が困難な為、計算で日や時間が割り出されたとのことで、礼拝が重要視されていたイスラームの人々によって天文学が発展していったことが分かりました。
さらにイスラーム5行の中には喜捨(1年間の余剰財産の決まった割合を感謝を込めて神様に還元する=人の手を通して貧しい人にそれが回っていくこと)があり、数学者のフワリズミーは、商売の計算、遺産配分の計算などを研究し、喜捨の割合を計算する為に数学が発達していったそうです。
11 世紀~12 世紀の貿易ルートをみると、イスラームの巡礼ルートと同じであることが分かります。巡礼が貿易や旅行を後押ししていたのは明確で、1年に1度マッカで出会った人を通して情報交換が行われ、12世紀ごろからヨーロッパへ少しずつ知識が伝わっていったそうです。今では現地に赴かなくてもリアルタイムで世界中の人と情報を交換することができる私たちにとって、当時の人々の努力は計り知れません。
最後に、「イスラーム共同体は、共通語のアラビア語があり、他宗教・異文化の共生があり、各地に科学アカデミーができ、イスラーム経済圏が拡大し、交易活動が盛んになり、喜捨や喜捨によって各地にアカデミーが作られ、拡大していきました。こういったものが全て関わってイスラーム科学の1000年の歴史が築き上げられ、グローバルな融合文明として近代科学の扉を開いたと言えるでしょう」と締めくくりました。
ハムダなおこさんは、「各国で習う知識が異なることは当たり前です。ヨーロッパ方面からきた知識が全てではないので、知らないことを知って、自分の知識を豊かにし、それが会話のきっかけになってもらえれば嬉しい」とお話されました。
<当日の参加者の声(実施後の参加者アンケートから抜粋)>
・イスラームの5行の礼拝や断食、巡礼を正しく時間通りに行うために、数学や地理、天文学に影響を与えていたのは意外だった。
・セミナーには初めて参加しました。内容が広範囲でしたが、とても良くまとまって分かりやすいお話しでとても理解が深まりました。中世の医者の心得も現代でも必要な心だと思いましたし、「金貨は常に流れていなくてはならない」ということも意味の深い、印象に残る言葉でした。
・なおこさんの言葉の中で、『歴史を俯瞰してみた時に、異質なものを受け入れたことで科学や文化の発展が目覚ましかったということを忘れないこと』のようなお話があったのが胸に響きました。現代の社会にとって大変重要な視点だと思います。
・現代社会で当たり前に使っている物や考え方はイスラームの英知の恩恵を受けたものが多数あるという私たち日本人がほとんど知らない事実や、世界には色々な歴史教育があるが日本の歴史や科学教育は世界の中でも西洋の影響を色濃く受けた内容であること、それが正義、全てだと思っている日本人の多い事等、(中略)を気付かせていただけました。
・イスラームの歴史をおさらいして下さったお陰で、近代の発展の源にはイスラーム科学があるのだと実感しました。
・日本の学校教育で学ぶ事、メディアが報じる事が如何に欧米の世界観に偏ったものかを知り、驚きと共に今後も本当の歴史、世界観をもっと学んでいきたいと感じました。
<ゲストスピーカー>
ハムダ なおこ
日本UAE文化センター代表、作家、翻訳家、エッセイスト
学生時代は米国・メキシコに留学し、英国の科学調査探検隊オペレーションローリーに参加など、さまざまな国際交流団体に所属して活動する。
1987年 第14回「東南アジア青年の船」事業に日本参加青年として参加
1989年 早稲田大学文学部文芸科卒(卒業論文首席)
1990年 第2回「世界青年の船」事業に通訳として参加。そのときに出会ったUAE参加青年と結婚してUAEに移住。5人の子どもを育てる。
2008年~ 日本UAE文化センターを創設し、地域社会に日本文化を、日本にアラブ文化を広める活動を始める。
2011年~ 東日本大震災を機に宗教法人日本ムスリム協会と協働して慈善活動を続けている。
※主な訳書・著書に、『シャヒード、100の命―パレスチナで生きて死ぬこと』(2003年翻訳)、『アラブからこんにちは』(2013年)、『アラブからのメッセージ―私がUAEから届けた「3・11」への支援』(2015年、第3回潮アジア太平洋ノンフィクション賞を受賞)、『ようこそアラブへ』(2016年)、『アラブに自殺、イジメ、老後不安はない』(2021年)、『アラブからこんにちは2――異国に幸福をさがす――』(2023年出版予定)
<モデレーター>
齊藤 愛子
内閣府主催の青年国際交流事業に、2004年「東南アジア青年の船」事業日本参加青年として参加。その後、2009年、2017年、2019年に、同事業管理部員として乗船。
第1回「イスラームを知ろう!」からの企画・運営を行う。多様性の理解が人のこころを平和にすると信じており、「イスラームを知ろう!」を多くの人に体感してほしいと奔走中。
※ 過去のセミナーの開催報告は以下リンクからご覧ください。
◆第1回:イスラーム教を学ぼう!<入門編>(2020年11月1日開催)
◆第2回:イスラームを知ろう!~日本人ムスリムの生活をのぞいてみよう~(2020年12月20日開催)
◆第3回:イスラームを知ろう!「ハラールフードってなに? 〜専門家に聞くムスリムの食事とおもてなし〜」(2021年3月28日開催)
◆第4回:イスラームを知ろう!~ハラールフード料理教室(カプサ)~【オンライン】(2021年9月26日開催)
◆第5回:イスラームを知ろう!~ハラールフード料理教室(マクルーバ)~【オンライン&現地(東京都)】(2021年11月23日開催)
◆第6回:イスラームを知ろう!~日本人ムスリマが見つけた、心豊かな中東イスラーム社会の暮らし方~(2022年1月30日開催)
◆第7回:イスラームを知ろう!~ハラールフード料理教室(シシバラク、バクラワ)~【オンライン】(2022年2月23日開催)
◆第8回:イスラームを知ろう!~断食は“入り口”なだけ。人生をリセットする「ラマダーン」~【オンライン参加&現地参加(東京都)】(2022年4月10日開催)
◆第9回:イスラームを知ろう! ~となりのムスリム:地域と生きるマスジド大塚「モスク見学/フードドライブ体験」~【現地参加(東京都)】(2022年7月23日開催)
◆第10回:イスラームを知ろう!~服装からみる中東・湾岸地域の女性~【オンライン】(2022年9月11日開催)
◆第11回:イスラームを知ろう!~トルコ料理教室(チーキョフテ)~【現地参加(東京都)】(2023年6月25日開催)
◆第12回:イスラームを知ろう!~日本人ヤングムスリムのストーリー:マスジド大塚とともに「モスク/炊き出し見学」~【現地参加(東京都)】(2023年7月22日開催)
_______________________________
問合せ先:一般財団法人青少年国際交流推進センター
TEL 03-3249-0767
Email i.seminar@centerye.org