一般財団法人青少年国際交流推進センター(以下、推進センター)は、2021年1月16日(土)、17日(日)に、オンラインプログラム「海と森に親しもう!復興のプロセスから自然と人間の共生のありかたを考える 講演・交流:宮城県南三陸町」を開催しました。
当日は宮城県南三陸町にお住まいの4名の方から、復興の道のりや震災後に気づいた自然と共に生きることの大切さやその工夫について、まちづくり、海、人との交流、森の4つのテーマで話を聴きました。また、南三陸町の自然を題材とした体験活動を通して南三陸町の人々と交流しました。
<16日:まちづくりと海の話>
「生き残った人が震災のことを語り継ぎながら、環境に配慮した町づくりの先駆けになっていることが誇りです。」
最初に、震災当時に副町長であった一般社団法人南三陸研修センター代表理事の遠藤健治氏が、南三陸の地理的特性から津波が発生しやすい地域であること、そのため東日本大震災の前から自主防災組織を強化していたことなどを話しました。山間部に住んでいる人は浸水地域の人が避難してくることを想定して炊き出し訓練など行い、避難者を受け入れられる体制を整えることが大切というお話は、自分たちへの備えだけでなく、町全体を考えることの共助の具体的なあり方を気づかせてくれました。しかし様々な対策を講じていたにも関わらず、国が出した防災対策(最大6.7mの津波に対して)をはるかに上回る津波が到達し、特に浸水予定地域外に住んでいた人たちは津波に対する避難の意識を変えることができず、適切な避難行動がとれずに犠牲となってしまった人が多いこと、ハザードマップは絶対的なものではなくそれを超えるものについても訓練する必要があることを強く伝えました。防災への取組みや震災の被害状況の説明を受け、「自分の命は自分で守る」ことの大切さを学びました。
新たなまちづくりを進める中で「環境と共生するまちづくり、交流人口・関係人口の拡大」をテーマに取り組んでおり、世界初の同時認証となったFSCやASC認証の町であることやバイオマス産業都市構想などの環境に配慮した持続可能な取組みは、他に誇れるものであると話し、生き残った人が震災を語り継ぎながらまちづくりを行っていきたいと話しました。
「いいものをつくりたい。そうでないと今後につながらない。」
続けて、たみこの海パック代表の阿部民子氏が、自然環境や労働環境に配慮した漁業のルールを南三陸町の漁師たち全員で話し合って決め、漁業のあり方を見直したことで、「みんなの海」という意識が強くなったというエピソードを話しました。過密だった牡蠣の養殖現場にゆとりを設けたら牡蠣が大きく育ち良質なものになったこと、2019年には農林水産祭で戸倉っこカキが天皇杯を受賞したこと、生産者と消費者が一緒に取り組むことで食の安全が守られることなどを話しました。ASCの7原則125項目基準も説明し、「未来をつくる道具 わたしたちのSDGs(ナツメ社出版)」という書籍にも南三陸町の海、漁業が取り上げられており、環境保全の先駆けとなっていることを紹介しました。
そして南三陸の乾燥わかめを使ったふりかけづくりを行いました。茎は漬物に、葉はわかめとしてすべて食べることができる食材であることなどを説明し、参加者はそれぞれ分量の異なる独自のふりかけづくりを通して南三陸の海の幸に触れ、堪能しました。
※ASCとは、水産養殖管理協議会による認証制度で、養殖の水産物に対し、「海の自然を守りながら責任を持って育てられた水産物」であることを示す国際的なエコラベルです。
<17日:人と人との交流と森の話>
「うまくいっているときは周りの人や自然に感謝。うまくいかないときはアイデアを出して乗り越える」
最初に、一般社団法人南三陸研修センター理事の阿部忠義氏が、避難所での生活を通して人間は助け合って生きるもの、避難所が1つの生命体であり、命をつなごうという想いを感じたエピソードを話しました。また、みんな家族を失っていたり行方不明者が周りにいたりという状況下で、笑いやおもしろいことが苦難を乗り越えるパワーになること、震災前は自分の夢を実現しようと自己実現を求めていたが震災後は生き残った意味を考え、人のために働こうと他己実現の考えをもつようになったことも話しました。ボランティアで訪れた学生たちが実際の活動を通して目の色が変わるほどよい影響を受けていることを感じ、学びで交流促進をするための「まなびの里」をつくったこと、笑いがやる気になるという視点で、廃校を工房にしてできた工房を「廃校工房」→「廃工房」→「はい工房」→「YES工房」と名付けたり、YESといえばNOということで「農工房」をつくり、恩を植えて恩を食べるという理念で活動を南三陸町外の人を交えて始めたり、「置くとパスする(試験に合格する)」という意味でYES工房のキャラクター「オクトパス君」を生み出すといった面白いアイデアをたくさん共有しました。
「がんばる人をゆるく応援。南三陸の地域資源を活用するモノづくりで地方創生へ向かう。」
続けて、一般社団法人YES工房代表の大森丈広氏が、南三陸町の約7割を森林が占めているにもかかわらず、最近は暖をとるにも薪木ではなく電気となったことから廃材となる杉の木が多い現状や林業の経済的懸念について説明しました。また、FSCという国際認証が徐々に大企業に浸透しつつあり、認証のあるものを積極的に使用していく社会の流れになってきていることを話しました。そして、南三陸の地域資源を活用するモノづくり工房としてYES工房を紹介し、体験活動で使用する杉の木の特性について触れました。
杉の木を利用したスプーン・フォークづくりでは杉によって黄色、ピンク、白と、それぞれ色味が違うことを説明し、参加者はそれぞれの杉の持ち味を活かして南三陸の森からのギフトを楽しみました。
※FSCとは、国際的な森林管理の認証を行う森林管理協議会が、責任ある森林管理がされている森林に対して与えるマークです。
<参加者の声:アンケートより抜粋>
南三陸町の防災の取り組み方、今後の課題が明確になっていて熟考されていると思った。新しい事にチャレンジする、または既存の物を変えていく事が日本ではなかなか難しいと感じることも多いのですが、上手く取り入れて将来へ繋げていると思いました。そして何よりすごく前進、復興している事をしってとても嬉しかったです。
その地域ならではの暮らしや、復興への想い、まちづくりについて、そこに暮らす人々の生の声を通して知ることができたのがよかったです。
杉の木は50年でも若い、阿部さんの10年社会実験のつもりで、等、スケールの大きいお話を伺って(中略)次の世代につなぐ大切さや、モノづくりの大切さ、原点にかえる学びを得ることができました。
※このプログラムは、ローカルアンバサダーシリーズとして数回にわたり実施します。ローカルアンバサダーとは、様々な地域の取組みや大切にしていることを学び、その魅力を感じることで地方のファンを増やし、日本をどんどん元気にしていくという気持ちに共感できる人です。
次回セミナーは、2021年2月7日(日) 、13日(土)開催「北海道胆振東部地震から学ぶ レジリエントな地域づくり」です。下記サイトより申込可能です。
https://localambassador-hokkaido.peatix.com/
<主催> 一般財団法人青少年国際交流推進センター
<協力> 日本青年国際交流機構(IYEO)
<講師>
遠藤健治
一般社団法人南三陸研修センター代表理事・前南三陸副町長
昭和42年4月志津川町役場(現南三陸町)入庁。教育総務課長、企画課長、総務課長を歴任。
平成17年、市町村合併により南三陸町が誕生し初代副町長に就任。新たな町づくりに努めている最中の平成23年3月11日、東日本大震災が発生。
副町長2期目の4年間は壊滅的な被害を受けた町の復興に奔走。復興事業が軌道に乗った4年後の平成27年3月に退任。
現在は震災後設立した一般社団法人南三陸研修センター代表理事として主に学生や企業人を対象とし、当地域の豊かな資源や震災体験に基づいた幅広い「まなび」をサポートしている。
阿部民子
たみこの海パック代表 山形県出身。
1985年 南三陸町の漁師に嫁ぐ。震災当日まで家業の漁業に従事。
2012年 たみこの海パックを立ち上げる。
阿部忠義
一般社団法人南三陸研修センター理事
昭和52年4月志津川町役場(現南三陸町)入庁。
平成23年4月入谷公民館館長就任。
震災前は、産業振興課に勤務し主に商工観光関係の業務に従事。
東日本大震災直後、いち早く働く場を作る必要性を感じ、廃校となっていた校舎をリノベーションし、入谷 YES工房を設立。工房の他、農園コミュニティ事業や学生が集う地域づくり推進事業などに取り組んでいる。
平成27年3月、町職員を退職。現在は一般社団法人南三陸研修センターの事業活動を通じ、交流人口の拡大・促進と地域振興の活性化に日々奮闘中。
大森丈広
一般社団法人南三陸YES工房代表
南三陸町出身。デザインの分野に興味を持ち、東京の学校に進学し東京で就職。
東日本大震災後Uターンし、2012年7月よりYES工房の活動に加わる。
2018年6月「南三陸復興ダコの会」代表就任。
2019年6月「一般社団法人南三陸YES工房」設立および代表理事就任